☆☆☆ 少女アリス 02


第2話 王宮  〜王宮庭園と王子〜

 王宮庭園。
「アリス・・・、こちらにいらして」
 導かれるままに、外廊下へ。
 幼い女王は消え、代わりのように王子が現れた。
「アリス・・・、どうしてお前がいる?」
「・・・王子」
「どうして、ここにいる!? 」
 叩きつけるように叫ぶ。
 いらだちに歪んだ顔。まるで、アリスが目の前に存在することが許せないというように。
「王子っ・・・」
 アリスは戸惑い、後ずさった。
「アリスっ!!」
 王子はアリスが後ずさったのを見咎めて責めるように叫んだ。
「お前は何の為に僕の前に現れる!?
 幾度現れれば気がすむのだ!?
 僕はもう嫌だ!!
 お前なんか、見たくないっ!! 大嫌いだぁっ!!」
「おうじ・・・」
 王子は狂ったように叫び続ける。
 泣きそうなアリスに詰め寄り、自分の方が泣きそうで歪めた顔をさらに歪める。
 アリスの傍にいることが苦痛だと全身で訴えるように・・・。
「王子、ああ、王子・・・。
 どうか、どうか正気にもどってください、王子・・・」
「正気に! 正気にもどれだと !?
 僕のカギを無くしたお前がっ!
 アリス、お前が言うのかっ!?」
 王子は興奮してアリスにつかみかかった。
 アリスの肩にきつく指がくいこむ。
「返せっ! 僕のカギを返せ! 今すぐにだっ!」
「王子っ、許して、ッ、カギはっ・・・」
 涙があふれないように目をつぶったアリスに、王子は耳元で残酷に囁いた。
「絶対許さない」
 アリスがショックを受けるより速く、王子はアリスを抱きしめた。
「あっ、王子・・・?」
「アリス・・・」
 想いを込めて抱き締められている。それを思い知らされるような優しい声。
「許さない」
 優しい声。
「一生、絶対に・・・」
 誓うような誠実な声。
 その声に誘われるように(騙されるように)アリスは顔を上げた。
 そこには顔を歪めた狂王子ではなく、年相応の、少年らしい一心に何かを信じるような瞳をした王子がいた。
 まだアリスより背の低い少年。
 アリスは王子の声音に惑わされて、その内容を忘れていた。
 王子は優しく染み渡るように、甘く、毒していく。
「お前は、僕のものだ・・・」
 少しずつ何かが狂っていくような言葉。
 誰かの軋みが聞こえてくるようだ。
「私はっ・・・」
 歪んだ歯車が廻り始める。
「僕のものなんだっ!」
「・・・私は」
「僕のカギだ」
「・・・私は」
「・・・好きなんだ」
「王子っ!」
 永遠に続くかに思われた問答は、王子の一言によって打ち切られた。
 アリスは声を上げ、その言葉をかき消す。
「アリス!」
「王子!
 あなたは何を言ってるか、わかってない!」
 重なる絶叫。時間は急激に流れ始めた。
「あなたは王子。あなたは子供。
 あなたは無知!
 何もしらないくせに、ワガママばかり!
 私を苦しめないで。わたしを煩わせないで!」
「ちがうっ!」
 絶叫。アリスは主人公(アリス)として目覚める。
「私は物語を束ねる者。
 法に従い、それを許可し、実行します。
 あなたは王子として、私はアリスとして存在することをここに宣言します!」
「ちがうっ!」
 王子はひたむきなまでにアリスを見ている。―――恋い焦がれている。
 アリスはもはや王子を見ていない。
「アリス・・・僕のカギ・・・」
 王子はそっとアリスに寄り添い口づけた。
「あなたは王子として、」
 アリスは無心に呟いてかき消えた。
 そして、王子はまた狂い始めた。


 ・・・王宮庭園、外廊下では、王子が少年のまま永遠にアリスの為に彷徨っている・・・



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